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Koss x Terre Thaemlitz
アルバムをリリースするふたりによる対談
 
- Yusuke Kawamura


In Remix (Japan), Issue 182, August 2006.

 

 冒頭でも書いたようにアルバムをリリースしたばかりのクニユキ・タカハシが、今度は〈mule electronic〉より、KOSS名義のアルバムをリリース。同名義のアルバムとしては、『Ring』から、ライヴ&新曲の『Live Ring』をはさんで、じつに6年振りのオリジナル・アルバム・リリースとなる。こちらの名義では、よりディープなエレクトロニック・ミュージックへの探求が行われており、ときにノンビートになる電子音響が壮大でどくとくな世界観を導きだしている。そしてこの〈mule electonic〉からアルバムを同時期にリリースするテーリ・テムリッツ。自身の〈コマトンズ・レコーディングス〉や〈ミル・プラトー〉などからリリースしていたアーティスト。現在NYから日本の川崎に拠点を移し、つい最近K.S.H.E.(上作延ハウス・エクスプロージョン)名義で、じつにコンセプチャルなアルバム『Routes Not Roots / ルーツではなくルート』をリリースしている。テーリの作品を貫く、ひとつの大きなテーマとして、彼自身のスティグマでもあるトランス・ジャンダーがある。その差別や偏見、またはそれらを生み出す社会に対して、彼の作品はなんらかの問題意識を持って作られている。前述のアルバムにしても、生まれながら決められたルーツよりも、人生のなかでなにと出会い、どんな道を辿り、そしていまどんな個性を持ってきているのか、それが重要だと説くように、彼の作品もアフロ・パーカッションやジャズなどさまざまな音楽的要素を垣間みれるが、それぞれそのものではなく、他の要素もミックスされたヒプノッティクなハウス・サウンドで、まさにいまのテーリが出すオリジナルな音となっている。今回〈mule electonic〉からリリースされるのは、〈コマトンズ・レコーディングス〉などから、さまざまな名義でリリースしてきた音源をコンパイルしたアルバムとなった。同時期に〈mule electronic〉からアルバムをリリースするふたりにご登場願おう。

■アーティストとしてどういう印象を持っていますか? まずはクニユキさんからテーリさんの印象について。

クニユキ:じつは僕、98年にテーリさんの〈コマトンズ・レコーディングス〉にデモのCD送ったことがあるんですよ。

テーリ:それはバツだったなあ(笑)。

クニユキ:いや、それでテーリさんはメール送ってきてくれて、その内容がアンビエントのCDだったんですけど、それを送って……。

テーリ:〈コマトンズ・レコーディングス〉は、ハウスばっかりだからリリースすることはできない、って(笑)。

クニユキ:それでテーリさんが、スタジオにあるスピーカーで聴き直したら、2曲目がすごくいいって送ってきてくれて。個人的にテーリさんの〈コマトンズ・レコーディングス〉の作品はすごい好きで聴いてたんですよ。音楽の幅がすごく広くて、ジャンルを定められない音楽を作ってる人だから、その印象がすごく大きいな。音楽にとって重要なのが、オリジナリティというか、その人にしかない音楽の形。自分にとってはそれがすごく新鮮で、テーリさんの音はまさにそういう世界もある。もちろん、いろんなアーティストの人がそれぞれそういう形があると思うんだけど。

テーリ:私自身は、それとは多分反対で、自分の音楽にはオリジナリティがないっていう考え方がある。私の作るものは、大体真似ものです。

クニユキ:それについて言おうと思ってたんだけど、多分、俺も自分の作ってきた音楽っていうのは、それまで聴いてきた音楽であるとか背中に背負ってる音楽がいっぱいあって。それを自分なりに、自分の中で組み合わせるというか。そのやり方というのが僕の思うオリジナリティです。

■テーリさんは、クニユキさんのことをどうとらえていますか?

テーリ:前の〈ディーパーラマ〉(テーリ主宰の〈モジュール〉で開催されるイヴェント)で、クニユキさんにコスの名義でライヴをしてもらったんですよ。でも、本当はライヴよりもアルバムの方が好き何だけど……でも、その日はライヴはすごいよくて。多分、クニユキさんは私と同じで、本当にいろいろな音楽を聴くんだと思いましたね。例えば、インダストリアルとアンビエントとかを聴いてきた歴史もあるだろうし、だからなんかわかる気がする。コアとなっている哲学は違うと思うけど、でもなんだか興味がある。鏡の向こうにいるとか。

■最新作聴かれましたか?

クニユキ:たぶん、すごいリエディットしてると思うんですけど。僕もまだまだ世に出していない作品ってたくさんあるんですけど、その音楽は何年もかけて“じゃあこうしようかな”って動いていくんだけど、今回のアルバムでは、すでにリリースしている曲もリエディットして収録している。それは、1曲に対して、まだやれることがあるっていう部分で、自分の制作に関してもすごい先を見られるアルバムだなと思いましたね。曲自体はリエディット前のものも聴いてるんですけど。でも、たとえ同じ曲であろうと、リエディットすればまったく別の解釈になるし。それがすごく新鮮でしたね。

■テーリさんはKOSSの新しいアルバム、聴かれました?

テーリ:まだなんですよ。でも、この前出たクニユキ名義のアルバムは、ジョー・クラウゼルなんかの関係性も感じるし、そういうニューヨークと日本のハウスの関係は、味があると思う。ニュー・アルバムはまだ聴いてないんですけど……。KOSSは、アンビエントとダンスの間みたいな感じで、テクノとかあまり好きじゃないんだけど。KOSSには、ディープな感じでもっと深いエッヂがある。クニユキさんはいつも違うアルバムを作るから、どの作品も最初からリセットして聴く必要がある。

■お互い、いままでの作品で好きなのってあります?

クニユキ:僕は毎回、DJの時はよくかけます。〈コマトンズ・レコーディングス〉の4番(Terre's Neu Wuss Fusion: "She's Hard")。それのライヴ・ヴァージョンなんですけど、イントロの部分がすごくいい世界を持っていて、それをプレイした瞬間に、自分にとっては世界が変わるから。自分の意識も変わるんですよ。だからその曲がフェイヴァリット。 ■テーリさんはクニユキさんの曲で好きなのは?

テーリ:前のKOSSのアルバムの、1曲目のライヴ・ヴァージョン。アンビエントっぽくなくてダンスっぽくて、あれは、もっと長いヴァージョンを聴きたい。

■なんか聴きたいことあります?

テーリ:やっぱり札幌のスタジオを見てみたい。

クニユキ:この間、テーリさんが札幌に来たときに、ぜひスタジオ見てもらいたかったですね。テーリさんとも話したけど、テーリさんも使ってたカシオのFZ10とか、昔の機材をいまだに好きで使っている。〈ディーパーラマ〉でも機材の話になって、パソコンのOSも古いOSを使って、古いソフトを使って、とか。そういう共通点もあるから、僕もテーリさんのスタジオには行きたい。

テーリ:なにが同じでなにが違うのか知りたい。

■ふたりの音楽で、お互いに、いちばん共通してるなっていうところと、いちばん違うなっていうところ、それぞれどういうところだと思います?

テーリ:共通してるところは、いろんなものを聴いていろんなものを作るところ。音楽に対して、嫌いなものとか、しっかりと批判的な考え方もできるし。いちばん違うところは……ちょっとわかんない。

クニユキ:そうですね……俺は基本的に、音楽って感じることしかできなくて、思考で考えるよりも感じるもののほうがダイレクトで好きで。自分でそういう風に聴けるってことは、テーリさんもそういう人なのかなと勝手に自分では思ってる。違うところでおもしろいのは、昔のアーティストで、例えばインダストリアルなノイズの音楽とかお互い好きでも……。

テーリ:私はアンビエントは大好きだけど、インダストリアルはあまり好きじゃない。

クニユキ:「テスト・デプトとかどう?」って言ったら……。

テーリ:アンビエントの曲は好きだけど、あまり好きじゃない曲もある。

クニユキ:その違いは興味深いですよね。

テーリ:たぶんクニユキさんは、私よりも音楽を信じているのかなとも思う。私は音楽は、ただのメディアのひとつだと思ってて。音楽はそんなに大事じゃないんですよ。もっと、メッセージとかが大事だと思ってる。私は外国から来て、西欧風の哲学的な考え方なんだけど、じつは日本には私の考えているジェンダーとか性別のテーマが多い。そういうメッセージがあると、ハウスとしては踊りにくいかもしれないけど、ヨーロッパのリリースでは、テキストを書いたりだとか、そういうことをして、ひとつのメディアとして考えている。いまは、どうやって日本にそれを翻訳して、伝えて、教えるか。日本社会とそういった問題の関係とか、すごい複雑な気持ちになります。私の日本語のレベルには限界があるし、自分の仕事が説明できないとか感じることもあって。

■テーリさんはアメリカからいらっしゃって、西洋的なものの考え方からとらえて、クニユキさんに感じる日本っぽいところとかってあったりします?

テーリ:もしあるとしたら、日本のカオスなところとか、ダンスは、ちょっとヒッピーっぽいというか、それは札幌のことなのか日本のことなのかはわからないけど。ナチュラルな感じというか。

■ではそれぞれの作品単体で聴いてみたいんですけど、まずテリーさんの『You? Again?』にコンセプトとかってあります?

テーリ:〈コマトンズ・レコーディングス〉からのリイシューものを、ヴァイナルだけでしか出てなかった作品をCDに入れたりとか。〈コマトンズ・レコーディングス〉の、過去のそういう作品を違う時代に聴かせるというか。なかには、過去を知らない20代の人たちが聴くと思うんだけど、『You? Again?』というタイトルだし、リイシュー的なものですね。

■いちばん気に入っている曲は?

テーリ:たぶん1曲目かな。チャガーの“バック・ロジャーズ”のディープ・スペース・リメイクス。これが1番いい曲かな。その曲からはじめていいかなと思って。

■クニユキさんは、どんなコンセプトで? 非常にコンセプチュアルな名前ですが。これは緯度とか経度のことなんですか?

クニユキ:そうですね。ただそれも、わかるかわからないかっていう程度のもので、実際探したらそのポイントは出てくるんですけど。

テーリ:MポイントとかSポイントとか、それがマゾとサドの交差点だったらおもしろいよね(笑)。

クニユキ:4つのエレメントがあって、それはネイティヴな、自然なものから発生しているイメージなんです。日本も北海道と本州と四国と九州、大きく分けて4つの島だったり、昔は、地球っていうのは4大陸だって言われてて。だから、自分のなかで4つっていうものの内容を音楽にたとえて作ったんですよ。このNポイントっていうのはノースで、あとミドルと、ミドル・ウェスト、サウス。日本人だったら日本人として、そういう風に解釈できる日本の土地柄だったりっていうものも混ぜつつ作ったんですよ。4つのものに執着して暴れてみました。

(取材:河村)