terre thaemlitz writings
執筆

スーパーデラックスでのライブにおけるスピーチ
 
- テーリ・テムリッツ(ed. 倉持政晴、アップリンク)


Super-Deluxe、東京、2009年2月20日

 

 「音楽の構造は社会構造をシュミレートします。また、その不協和音は限界を表現します」 ─ そのように、フランスの行政官であり、音響哲学者のジャック・アタリは書きました。

 また、HIV/AIDSアクティビストのドン・ラインは、「クイアー・メディアとグラフィクスの開発は80年代にAIDSアクティビズムによって爆発しましたが、一方で私達は自分たちのオーディオをほとんど持つことが出来ませんでした。デモにおける“ヘイヘイ、ほらほら、同性愛嫌悪は出て行け!”というスローガン以上のオーディオはなかったのです」と言いました。

 私がアイデンティティーや社会の問題についてのノイズ的なオーディオを作る時、いつもこの両者の発言について考えます。

 しかし、音楽は詩歌と同じように、その意図を説明することで初めて成り立つ物です。多くの人々は音楽を聞くようには訓練されていないからです。音楽家にしても、リスナーにしてもです。多くの人々は音楽を聴くよりも感じたいと考えているからです。日本のノイズ音楽のシーンにも反社会なイメージがありますが、その中で大半の音楽家はカルトリーダーのような存在になりました。テーマより、自分のエゴがメインになりました。このために、実験音楽は普通のポップミュージックと同じように、いまだに幼稚なメディアであると思います。

 以上のコンテキストに従って、私は出来る限り、自分の曲のテーマを説明したいのですが…

1. Inelegant Implementations 1-7

 最初の曲は97年に作った「Inelegant Implementations 1-7」という曲です。 タイトルは「粗野な履行」という意味です。 この曲は、C-soundと言うソフトウエアーを使用して、政治的なスローガンと、テレビ的な喧伝と、ジャズを組み合わせて作られたものです。 ジャズは左翼的な一般大衆のイメージと、商業音楽のイメージを同時に持っています。 同様に、エレクトロニック音楽も様々なイメージを持っていますから、この曲では「まだ離れている、或いは相互に連結した」様々なサンプルを用いて、自分のアルバムの商業的な矛盾を聴かせようとしました。 結果的に、やや猛烈な音に なりました… これは、左翼のメッセージを改造するマスメディアの暴力に似ていると思います。

2. Main Theme from Lovebomb

 次のうるさい曲は2003年の「愛の爆弾」と言うアルバムの最後のトラックで、「Main Theme from Lovebomb/ラヴボムのメイン・テーマ」と言う曲です。 これまでに私の批評を読まれたことのある方は、私がしばしば“社会によって私たちに課された統合失調症”について書いていることをご存知かと思います。 私達は自分のアイデンティティー …同一性… を一つだけ探そうとしますが、本当は沢山のアイデンティティーが必要です。 家での自分、仕事中の自分、親に対する自分、といったように。 このように、アイデンティティーとは一つだけのものではなく、あらゆるレイヤーの中の機能です。 「同一性」と言うより「同万性」と言った方が正しいと思います。 CDアルバムにも色々な曲が入っていますが、一枚のディスクで一つのテーマになります。 それらの過程を聴かせるために、アルバム上のトラックがすべて同時に一分間プレーされるという曲です。

3. Thaemlitz Mille Plataeux Catalog, 252 Layers, 126 Stereo Files, 60 Seconds

 次の曲も2003年にリリースされたものです。 「Thaemlitz Mille Plataeux Catalog, 252 Layers, 126 Stereo Files, 60 Seconds」。 「テムリッツのミールプラトー・カタログ、252チャネル、126ステレオ・ファイル、60秒」と言う曲です。 ドイツの出版社から出された「Soundcultures」と言う本に封入されたコンピレーションCDに収録されています。 このトラックでは「ラヴボムのメイン・テーマ」のやり方を更にエスカレートさせました。 ミールプラトーからリリースされた私の曲全てが同時にプレーされます。

4. Mille Glaces.000-009

 さて、このうるさい発表会の最後の曲は、未発表音源なんですが、「ミールグラーシュ」と言う曲です。 ミールプラトーの100番目のリリースのコンピレーションの為に作りましたけど、リリース前にレーベルが潰れました。 このトラックは9つの短い楽章で出来ています。 ミールプラトーと言う名前の「ミール」はフランス語で「1000/サウザンド」という意味ですよね。 「ミールプラトー」は「1000の高原」という意味です。 ジル・ドゥルーズという哲学者の本のタイトルから来ました。 そして、この曲を作る為に、ミールプラトーのカタログから500曲(ステレオファイルだから、全部で1000チャネル)を一つのファイルとして組み合せました。 この曲のタイトル「ミールグラーシュ」は「1000枚」という意味です。

最初の楽章は前の2曲と同じく、一分間にすべて同時にプレーされたもののミックスです。 その後、コンピューターで1000チャネルをリアルタイムですべて同時にプレーさせました。 もちろん、コンピューターはそんな沢山のファイルを同時にプレーする事ができませんから、コンピューターはいつもクラッシュしました。 あなたがこの曲を聴いているうちに、クラッシュし始めたコンピューターがオーバーロードのせいでチャネルをどんどん減らしていきます。 そして、クラッシュの1秒前に一番クリアーで音楽的な音が出ます。 ミールプラトーからリリースされた作品の多くは、「コンピューターグリッチ」というエラーを含んでいました。 ですから、私はこの曲のプロセスとレーベルのイメージがよくあっていると思います。