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terre thaemlitz writings
執筆

私はレズビアンではない!
――「あなたはホモなの?」という素敵な質問に対する公式見解――
 
- テーリ・テムリッツ


Originally published on comatonse.com (Japan: Comatonse Recordings, November 21, 2000).

 

 最近、ストレート(=異性愛者/へテロセクシュアル)の女性インタビュアーが私 の自宅を訪れ、ありきたりの質問を私に投げかけた。ソファーに腰掛けた彼女の横に はストレートのボーイフレンドもちょこんと座っていて、ありきたりな質問とありき たりな答えが行き来している傍で、彼女はボーイフレンドの手を優しく撫でてみた り、艶かしく輝く瞳で彼を見つめてみたり、二人だけの愛の陶酔空間に何分も浸った ってみたり(普通のインタビュアーならその無言の数分間で次の質問を考えることだ ろう)……。そして、躊躇をにじませた瞳で私を見つめた彼女は、やっとの思いで次 の質問を投げかけてきた。誰しもが赤の他人の唇から漏れるのを心待ちにしている素 敵な質問……「あなた、ホモですか?」

 しばしの沈黙。

 おいおい、この人ってば……本気で……質問しているよぉ!

 何故か私はこの質問をされると一瞬唖然としてしまう。私の記憶によると、そんな 反応をするようになったのは、私の‘プロジェクト’がセクシュアリティー(性に対 する認識)やジェンダー(社会的・文化的に形成される性差)を含む複数のアイデン ティティーの確実性を解体することに焦点が絞られていると圧倒的多数の人々が思い 込んでいる事実を知った時から。とはいっても、これまでこの質問は何度となくされ てきた。それと同時に言われたことは、私のこれまでのクイア的所作がすべて、自分 が何者かというものを的確に表わしたがる小煩いゲイ・ボーイの観念的なお座敷芸だ とか、性に対する自分の公式見解と子孫繁栄という生物学的な使命の間の不調和に罪 悪感を感じているストレートな男の的を得ない誤魔化しの同情心だとかと捉えられて いるということ。ここではっきりさせたいことは、もしこの質問をしたインタビュア ーが長年に渡って私の作品をフォローしてきたと伝えてくれていたなら、私としては 批判に満ちた重要情報を伝達することもなかっただろうし、これからここで私が述べ る如何なる返答も馬の耳に念仏のはずだ。しかし、さっきも述べたように、この女性 インタビュアーはありきたりな質問の一つとしてこの質問をしている訳なのだから、 私もお決まりの答えで応戦することになる。つまり、嫌な気分を誤魔化す愛想笑いを 浮かべながら使い古された‘グレーゾーン’の比喩で以て冷静に「へテロセクシュア ルが白、ホモセクシュアルが黒なら、クイアというのはその中間のグレーゾーンを網 羅する!」と述べるという次第だ。

 「では、あなたはバイ……」とインタビュアーは続ける。

 「違います。私はバイセクシュアルじゃなくて、クイア。バイセクシュアルという のはへテロセクシュアルとホモセクシュアルというの性の二極化を暗に強調する言葉 ですよ。セクシュアリティーには2つ以上の形があるし、2つ以上のジェンダーが存 在するんです。」

 「つまり……」とインタビュアーは私がまるで専門知識で彼女をけむに巻こうとし ていて、それに負けないぞとでもいうように、にっこり笑いながら「服装倒錯のよう な第三のジェンダーということ……」と応戦する。

 「そうじゃなくて、ジェンダーは3つ以上あるんですけど……。」

 沈黙。セクシュアリティーやジェンダーのバリエーションの多さは3つどころでは ないという明白な事実があるにもかかわらず、悲しいことに、私の言葉がねじ曲げら れた論理としてインタビュアーの耳に届いてるのが手に取るように分かるのだ。そろ そろ愛想笑いをもう一度浮かべる時がきたようだ。

 口当たりのいい御為倒しに騙されちゃいけない。そもそも、ゲイのメディアですら クイアを充分に理解していないし、その存在を社会に知らしめることもしていないの だから。事実、ゲイ出版物に関わるライターや編集者の多くがもっと直接的な言葉を 使おうという動きに呼応して、今後クイアという言葉を抹殺し、その替わりに‘ゲ イ’や‘レズビアン’を使う状況が増えると予想される。更に、こういった‘クイア 存続の危機’に同情的なゲイのジャーナリストたちですら間違ったクイア解釈をして いるのだ。その一例を挙げるとしよう。クイアに友好的なインタビュアーと話してい た時のことだった。インタビューの前に最近彼が執筆した雑誌を手渡された後、私は 件の女性インタビュアーのことを彼に話した。その時の彼は何も言わず、ばつが悪そ うに顔を赤らめていただけだった。その日の夕方、彼が書いた最新記事の冒頭で私を ‘ゲイ・アーティスト’と書いている箇所を見つけたのである。う〜ん、この言葉は ミル・プラトーのプレス・リリースから抜粋された可能性があるかも……。

 再三再四、世界中の友人たちが「テーリ・テムリッツは女と寄り添っている姿を目 撃されているぜ。あいつの‘ゲイ・クイーン’っていうのは嘘っぱちだ」と得意げに 話す人々の逸話を僕に教えてくれる。特に不快なのは、私の友たちフ中でもゲイやレ ズビアンとしての確固たるアイデンティティーを持っている友人にそういうゴシップ を伝える輩だ。それも彼らを正真正銘のホモセクシュアルだと認めた上で、私がホモ セクシュアル・コミュニティーの秩序を乱していることを伝えることで、彼らが驚い たり、怒ったりすることを期待しているのだから始末が悪い。

 これを最後に私がゲイか否かという論争にケリを付けたいと思う。

私はレズビアンではない!

(……でも、私はそれ以外の全てかもしれない)

 事実上、私は生まれた時から目に見えない壁に四方八方を囲まれた状態で育ち、自 分の性的欲求を主観的に理解する以前の段階で周囲からホモや女として看做され、そ れに伴う差別的扱いを受けてきた。そんな中で、私は自分の性的なアイデンティティ ー(と、時によってはジェンダー)を、周囲の人間の外見的および内面的性行動とは 明らかに性質の異なる、学習によって知覚する類いのものだということを受け入れる ようになった。ホモセクシュアルであれ、ヘテロセクシュアルであれ、どちらか一つ を選択しようと試みてはみたものの、結局は疎外感と苦痛しか見出せないでいる。更 に両者を以てしても自分の性的行動を反映するに不充分なのだ。例えば(以下に挙げ る疑問は机上の空論ではないのだ)……

  • もし私が女装していて、異性愛者のアイデンティティーを持つ女性と性交渉を持っ ているジェンダーを超越したドラァグ・クイーンだった場合、私の性的アイデンティ ティーはどんなものだったのだろう? もし彼女がレズビアンとしてのアイデンティ ティーを持っていたとしたら? もし彼女がクイアとしてのアイデンティティーを持 っていたとしたら? もし彼女がバイセクシュアルとしてのアイデンティティーを持 っていたとしたら? もし私が男装していたとしたら? もし彼女が男装していたと したら? ‘セックス’を構成する要素とは何で、もし彼女が私のお尻を犯していた としたら? もし彼女がそうしなかったとしたら? もし私がこの人と長期間の一夫 一婦的な関係を保っていたとしたら?

  • もし私が男装していて、異性愛者のアイデンティティーを持つ男性から女性へと転 換した性転換者と性交渉を持っていて、なおかつ彼女が性転換者だと気付かない振り をしているジェンダーを超越したドラァグ・クイーンだった場合、私の性的アイデン ティティーはどんなものだったのだろう? もし彼女が性転換者だということを知っ ていると私が認めていたとしたら? もし私が女装していたとしたら? もし彼女が ゲイとしてのアイデンティティーを持っていたとしたら? もし彼女がレズビアンと してのアイデンティティーを持っていたとしたら? もし彼女がクイアとしてのアイ デンティティーを持っていたとしたら? もし彼女がバイセクシュアルとしてのアイ デンティティーを持っていたとしたら? ‘セックス’を構成する要素とは何で、も し彼女が私のお尻を犯していたとしたら? もし彼女がそうしなかったとしたら?  もし私がこの人と長期間の一夫一婦的関係を保っていたとしたら?

  • もし私が男装していて、自分をストレートな男と頻繁に考えるジェンダー面で混乱 している女性と性交渉を持っているジェンダーを超越したドラァグ・クイーンだった 場合、私の性的アイデンティティーはどんなものだったのだろう? もし彼女がレズ ビアンとしてのアイデンティティーを持っていたとしたら? もし彼女がクイアとし てのアイデンティティーを持っていたとしたら? もし彼女がバイセクシュアルとし てのアイデンティティーを持っていたら? もし私が男装していたとしたら? もし 彼女が女装していたとしたら? ‘セックス’を構成する要素とは何で、もし彼女が 私のお尻を犯していたとしたら? もし彼女がそうしなかったら? もし私がこの人 と長期間の一夫一婦的関係を保っていたとしたら?

  • もし私が男装していて、クイアのアイデンティティーを持つジェンダー面で混乱し ている両性具有の男性と性交渉を持っているジェンダーを超越したドラァグ・クイー ンだった場合、私の性的アイデンティティーはどんなものだったのだろう? もし彼 がゲイとしてのアイデンティティーを持っていたとしたら? もし彼がバイセクシュ アルとしてのアイデンティティーを持っていたとしたら? もし彼がレズビアンとし てのアイデンティティーを持っていたとしたら? もし彼がストレートとしてのアイ デンティティーを持っていたとしたら? もし私が女装していたとしたら? もし彼 が女装していたとしたら? ‘セックス’を構成する要素とは何で、もし彼が私のお 尻を犯していたとしたら? もし彼がそうしなかったとしたら? もし私がこの人と 長期間の一夫一婦的関係を保っていたとしたら?

 私のことをよく知らない人たちは、私の方が‘混乱している’と声をひそめて語る ことが多い。私のセクシュアリティーに対する彼らの先入観に私自身が適応できない という、ъツ人の能力不足が原因で彼らが混乱しているのかもしれないが、私は微塵 も混乱していない。自分の好きなタイプの人間がどんな人で、私をその気にさせるも のが何か、私は充分にわかっている。また、私をげんなりさせるものが何かも充分に 知っている。これは多くの人が認めると思うが、(大抵の場合マッチョな男しか相手 にしない)その気もない筋肉質の男の子を追い掛けるケバいステレオタイプのドラァ グ・クイーンに私自身が当てはまらないという事実がある。そしてこの事実が人々を して私が‘混乱している’と言わしめるのだ。しかし、私が男らしい男に惹かれない ことは自分にとっては何ら不思議なことではない。私は幼少時代に男の暴力にもまれ て育ってきた(頻度は少なくなったとはいえ現在でも相変わらずその状況は存在す る)おかげで、女の中に本物の友情を見つけていた。そして、大人になった現在、肉 体的にも感情面でも(フェムもしくはセミ・ブッチの)女性か(男性もしくはトラン スセクシュアルもしくは女性の)フェムに惹かれる傾向がある。また、男気満々の男 たちから暴力を受けた経験がトランスジェンダリズムおよびジェンダーファックへと 興味を駆り立てたのは明らかだ。それも自分自身が生まれ持った肉体的なイメージを 伝統的な男らしさとは違うものに変化させる手段として。

 ところで、私をゲイ組織の正式メンバーとして認めるか否かを判断するために、私 のお尻もしくは私のパートナーのお尻に何が突き刺さっているのか、みんな本当に知 る必要があるのだろうか? (だいたい、人間より偉いとされている天上界の人たち は、ほとんどのゲイがやらない肛門性交をストレートの男女の方が頻繁にしているっ て現実認識を禁じているんだから困ったものだ!) 私は誰かにたずねられたら自分 の恋人のことを隠立てすることは一切ない。なのに、自分の「ゲイらしさ」を赤の他 人に評価してもらうってためだけに、セックスした相手一人ひとりを公表しないとい けないのだろうか? それに、これまでの長期の恋愛関係の対象が全部女性だという 事実は私がゲイじゃなくてストレートだって証拠になるというのだろうか? 実際、 数年間一緒に過ごした女たちにとってはそうではなかった。だって彼女たちは私の ‘うんざりするほどのクイアらしさ’に文字通りうんざりして離れていったのだか ら。また、男たちにとってもそうではなかった。だって彼らは‘正真正銘のゲイであ る証拠として女と付き合うのをやめる’ように強要したのだから。更に、善意にあふ れる両親も私をストレートだとは思っていない。だって彼らは‘ゲイの息子とそのガ ールフレンド’もしくは‘ゲイの息子とその妻’の写真を友達に見せてみんなを困惑 させているのだから。そして、私の現在のパートナーにとっても違う。

 しかしながら、赤の他人とはいえ、愛すべき隣人のみなさんには正しい答えを知る 権利があるだろう。

 私はゲイか否か。

 私はゲイではない。私は面目も誇りもない幸せなクイア。私の存在はゲイという名 を貶めるし、ストレート文化圏にとってはペストのような存在だ。さて、ここまでわ かりやすく説明してもわからなかったら、私が前に書いたセクシュアリティー/ジェ ンダー関連テキスト全部を読み返すことだ。そして面白半分のゴシップで私の友達の 邪魔をするんじゃない。

2000年11月21日


おまけ:ここに書かれてある私の答えに反対し、私を「レズビアンも含むすべてのも のだ」と主張するレズビアン女性たちからの反応が既に到着した。(2000年11月 22日)
 
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